三十路だけど公務員辞めてきた。

30歳にして市役所を退職した元公務員のブログ。主に役所の裏側や退職について。

鈴木光司『タイド』はリングシリーズの問題作だった?【ネタバレ注意】

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一週間振り以上の更新です。ここ最近、雷が落ちるたびに自宅のWi-Fiが切れて、ネットに接続する意欲がありませんでした(言い訳)。

自分が小さいころなんて真夏の夏休みはほぼ毎日「夕立&停電」のコンボだったから、あの当時にWi-Fiがあってもおそらく同じような状況だったでしょう…。

「タイド」を今さら読んだ理由

話を戻して、なぜ今さら「タイド」(作:鈴木光司)なのか。発表されたのが2013年であるから、もう5年前の小説である。

「タイド」は、20年程前に日本に「ジャパン・ホラー」ブームを巻き起こしたきっかけである映画「リング」の原作小説シリーズの流れを汲む続編である。

"原作の続編"であることを強調したが、"リング"は映像化作品群(邦画、洋画、テレビドラマ等...)と小説作品(リング→らせん→ループ)では、その元凶である女性"貞子"の扱いにおいて設定レベルで大きな違いがある。

原作における貞子の正体はネット上ではもはや「ルークの父親の正体」並みに有名であり(それは言い過ぎか...)、原作未読者でも"設定だけなら知っている"という者も多いとは思うが、あえてその点だけはボカして進める。マトリッ・・・、いや何でもない。

 

原作者が十数年ぶりにリングの続編を発表した、という話は聞いていたが、その時点で私はその新作を読もうとはしなかった。しかし、時は流れて先日たまたま図書館で「タイド」を見つけたので、借りてきた。

「エス」も未読だったが、Amazonの書評に「"タイド"を読んでいないとまるで意味わからん。」と書いてあったので、作中の時系列に従い「タイド」から読んだ。

感想としては、ちゃんと「リング」から「バースデイ」あるいは「ループ」まで読んでいれば、「エス」から読んで構わん。

※むしろ「エス」のネタバレが嫌な方は、ちゃんと発表順に「エス」から読みましょう。

リングシリーズの世界観(商業展開)

小説次元:リング→らせん→ループ→バースデイ:ここまで第1シリーズ

     →エス→タイド→未発表(あるのか??):2012年から始まった新シリーズ

映像次元:

(邦画):リング→らせん(同時公開)→バースデイ("ループ"は無い。)

          リング→リング2(さっそく"らせん"とは分岐する。)

(洋画):The RING→The RING2→The RING RIVERSE

(テレビドラマ):「リング~最終章~」、「らせん」、2時間ドラマ版とある。2時間ドラマ版はシリーズ初の映像化作品。

(イロモノ次元):「貞子3D」や変なオバケと戦うやつ。 

アニメに例えると、

遊戯王(原作)→遊戯王R→2016年公開の劇場版→遊戯王GX(漫画版)の流れと、

遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ)→遊戯王デュエルモンスターズGX→それ以降のアニメ作品(時間軸の繋がりに不明な点あり)の流れは、ファンの間では明確に区別されている。というようなもの。

正統リングシリーズの当時最終作である"ループ"が映像化されていない理由としては、当時の映像技術もあるだろうが、リングの持つジャパンホラーらしさを優先した商業的判断だと思われる。

リングと同時公開した"らせん"は、呪いの正体に医学的見地から迫った内容なのだが、リングらしい"呪い"や"和製ホラー"要素を期待していた当時の観客からはすこぶる不評だったらしい。

そういう事情もあり、ある意味ホラーにおける禁じ手まで作中に用いた"ループ"という作品は、角川サイドからすればもはや映像化できるシロモノではなかった。

つまり大人の事情としてはリングの続編は"らせん"ですらなく"リング2"なのだ。

(「リング2」は、原作ではやたら不幸な「高野舞」という女性が主人公となり最後まで活躍する。その辺はファンとしては嬉しいのだが...。)

「リング」の呪い

そもそも原作「リングシリーズ」の流れが、"続編で前回までの世界観やセオリーをぶち壊す"という仕組みになっている。

リング:ビデオテープを見て人が死ぬのは、呪いによるものです。(オカルトのセオリー)

らせん:ではその呪いとやらに科学的、医療的見地から迫ります。文字通りメスをいれます。(現実のセオリー)

ループ:呪いやウイルスでどうにかなる訳ないだろ。実は…(SFのセオリー)

 私はこの構造を批判しているのではない。むしろ、読者に驚きと深い印象を与える優れた構成だと思う(もちろん作者にそれだけの技量があるゆえに成せる技だが)。

読者はシリーズを通して読むことで、最終作"ループ"の主人公である二見馨(ふたみ かおる)の勇気ある決断や行動により深い感銘を覚えるのだ。

さらに、世界観が広がることで、読者は"貞子"に対して単なる幽霊の怨念を超えた脅威を覚える構成になっている。

"らせん"を読んだ経験がある方なら、作中ドキッとした箇所はないだろうか。妊娠中の読者から実際に出版社に問い合わせが来てしまったという、例の箇所である。その問い合わた不安が的中した世界をまさか次作"ループ"においてカタチを変えて表現するとは...。

続編である"ループ"作中の被害を描写することで、貞子をあらゆる創作物における幽霊、ゴーストの中でも恐ろしく記憶に残るモノとしているのだ。

("ループ"作中においても「ヤマムラサダコ発生の原因は全くもって謎」ということになっているので、もしかしたらホントの本当に貞子があの世界におけるオカルトの類である可能性も捨てきれない、と個人的には思っている。)

「タイド」作中における貞子について

私の様な一介のファンごときが"問題"というのはおこがましいが、やはり個人的には「貞子が小物化したな…」という印象を持ってしまった。

"ループ"作中において猛威を振るった転移性ヒトガンウイルス(原作未読者の皆様においては、貞子の凄い能力の一つだと思っていただきたい)の脅威はどこへ行ったのか?ループの終盤、その脅威はもはや人類では飽きたらず、上位世界の全生命体にまで影響を及ばし始めていたではないか。

全人類、全生命体に対するカウンターが貞子のアイデンティティであったはず。それが、作中の世界ではイレギュラーな存在とはいえたった一人の男に執着する(その上、割と陰湿な形で復讐しようとする)というのは、これまでの貞子からは想像できない。

しかもその原因は、生前の貞子の"家族事情"にあるときており、そのためにシリーズにおける“貞子キラー”として活躍してきたキーパーソン"高山竜二"に後付け設定を行うなど驚きの展開の連続である。

作者の鈴木氏は「男には家族(妻子)を守る義務がある」と公言しており、つまりそれだけ「家族」に対する思い入れもあるという事が想像出来る。

リングシリーズにおいても貞子の「家族」やルーツに今回は言及してみた、というところだろうか...。

またはリングシリーズのお約束である「前作のセオリーの否定」に則り、「らせん」終盤から「ループ」における“超人然とし人類を平気で抹殺するような悪魔的で冷たいイメージの貞子”を否定していることになるのか…。

(補足だが、私が貞子という登場人物に対して抱いていた"超人的で人類の抹殺に対して抵抗感を抱かない”というイメージも、あくまで「らせん」終盤の展開以降の貞子に対するものである。けっして貞子が生前からサイコパスだったとは見ていない。)

 

穿った見方をするなら、「エス」以降は「貞子」という人気キャラクターにあやかった展開、あるいはそれを揶揄したモノと見ることも出来る

ご存じの通り、貞子は映画「リング」のテレビから這い出してくるシーンがきっかけで、ホラー映画に登場する幽霊の代名詞的存在になった。

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しかし「貞子」に対して強すぎるホラーの期待値により、続編(同時公開)である「らせん」は不評を招き、シリーズ最終作である「ループ」はついぞ映像作品化されなかった。

その一方で「貞子」という登場人物だけが人気を博し、一人歩きし、始球式も行い、もはやスピンオフのような映画だけが制作されつづけている。

(邦画のタイトルに「リング」が含まれていない理由については、版権に関する都市伝説もあるが、その辺は本当にどうなのだろうか?)

そういった「貞子一人歩き」に対する「ほらほら、お前ら“リング”じゃなくて結局“貞子”が好きなんだろ?」というアンチテーゼも、もしかしたら含まれているのかも知れない。